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イベント開催報告 2011年度

発刊日 2011年12月19日(月)
【10/7(金)】ギガビット研究会 第1回シンポジウム開催報告

<目次>

■挨拶
電気通信大学 学長梶谷 誠
■挨拶
文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室長橋爪 淳
■「ギガビット研究会趣旨説明」
電気通信大学 特任教授上 芳夫
■「ギガビット研究会に対する産業界の期待」
JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社 代表取締役会長 河原 春郎
■「企業におけるEMC技術者」
日本アイ・ビー・エム株式会社 大和研究所 技術理事 櫻井 秋久
■「PCBとその周辺のEMCおよびSI/PI」
岡山大学 准教授 豊田 啓孝
■「感受性評価法およびアクティブ型ノイズ制御素子」
 1.電子機器・電子回路の感受性評価

代講:電気通信大学名誉教授 上 芳夫
 2. アクティブ型近傍界ノイズ抑制素子
代講:東海大学名誉教授 小塚 洋司
■「電気開閉コンタクトおよびPCBのEMC研究」
秋田大学 教授 井上 浩
■“Link-Path Modeling and Design for Non-Ideal Layouts – SI/PI/EMC Co-Design Using Physics-Based Models”
James L. Drewniak
Director of Materials Research Center, Curators’ Professor, Missouri S&T EMC Laboratory
■「第一線技術者養成講座のご紹介」
 1.電子機器・電子回路の感受性評価
電気通信大学 特任教授 上 芳夫
 2.アンテナ・EMC設計コース
岐阜大学 教授 中村 隆
■閉会の挨拶
電気通信大学 特任教授 上 芳夫
■編集後記

  平成23年10月7日(金曜日)、「研究会の活動内容と今後の計画について」と題してギガビット研究会の第1回シンポジウムが、電気通信大学(B棟202号室)を会場として開催されました。会員企業60社(90名)と関連大学の研究者(22名)など総勢120名を超える方々の参加を得て盛大に行われました。
  (会員の方には会報で詳細をご報告します)

■挨拶
電気通信大学 学長 梶谷 誠

 本学が初めて作った研究会であるギガビット研究会に多数の皆様のご参加を得て心から感謝いたします。 本学は産学連携を熱心にやっており、産学連携における教育と研究を一体にやることがコンセプトとなっております。産業界の皆様のご協力を得て教育・研究を両輪で動かして行こうと努力していることもご理解いただければありがたいと思っております。このギガビット研究会は、企業と大学間の連携が非常に大事になっている時代に発足しました。このギガビット研究会がますます発展できるように、皆様方のご理解ご協力を切にお願い申し上げます。

■挨拶
文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課 大学技術移転推進室長 橋爪 淳

 大学の産学連携の活動をお手伝いするため、大学の技術移転を担当しております。本日、各界から多くの参加者を迎え盛大に第1回のギガビット研究会のシンポジウムが開催されますことを、心からお喜び申し上げます。産学官連携は科学技術基本計画に基づいて始まりましたが、今年4期目の計画がスターしました。4期においても産学官連携の推進は引き続き重要な課題となっております。文部科学省としましても、各省庁と連携して取り組んでいきますので、皆様のご支援御協力をよろしくお願い申し上げます。ギガビット研究会の今後のご発展をお祈りいたします。

■「ギガビット研究会趣旨説明」
電気通信大学 特任教授 上 芳夫

 多数の皆様の参加を頂いて本会を開催できました。お礼を申し上げます。
 高速デジタル回路では、論理回路だけではなくアナログ回路技術を用いなければ機能しない状況になり、アナログ系とデジタル系が混在する機器が増えてきました。その結果、EMC問題、すなわち信号品質問題(Signal Integrity)、妨害波問題(Emission)、電磁耐性問題(Immunity)がクローズアップされてきました。小型・軽量化、多機能化が進むと、配線は複雑となり、GNDの欠落などの問題が生じることもあります。そうなると、電気回路理論だけでは解決できないので、大学の持っている知識を積極的に外部に出すような組織を作って問題解決に当たると共にその成果を還元しようということになり、ギガビット研究会を立ち上げました。
 ギガビット研究会は、研究コンソーシアムと第一線技術者養成講座が2本の柱となっています。 (続いて、それぞれの狙いと活動予定が報告されました。)

■「ギガビット研究会に対する産業界の期待」
JVC・ケンウッド・ホールディングス株式会社 代表取締役会長 河原 春郎

 10月1日で合併してホールディングスがなくなり、JVC・ケンウッドになっています。ちょうど3年前の2008年10月に日本ビクターとケンウッドの経営統合ということでホールディングスという会社になりましたが、先週の土曜日、10月1日付で合併して一つの会社になりました。売上大体3,600億の会社です。
 一昨日、スティブ・ジョブスさんがなくなりました。新しいベンチャーとしてアップルを創始した大変素晴らしい方です。アメリカはいろんな国のいろんな知識や考え方を持った人達が集まってくるところです。ところが、日本では、新しい産業のビジネスモデルは育っていない。今回のギガビット研究会はいろんな方々が寄って知恵を出し合おうと言うことで大変意味のあることだと思います。何か一つのテーマを生むような産業に是非つながって行くよう、皆さんのこれからのご活躍を期待します。

■「企業におけるEMC技術者」
日本アイ・ビー・エム株式会社 大和研究所 技術理事 櫻井 秋久

  私は、1982年に大学を卒業してIBMに入りましたが、その頃から徐々にEMCのリクワイアメントが立ち上がっていました。製品開発の方に約7~8年いましたが、EMC問題で製品が出せないということが続きました。そこで、IBMでは全世界のラボに対してEMCのラボを作れと言うことになり、いろいろ悩んだ末シミュレーションを始めました。YorktownにあるIBMの基礎研究所と連携して応用技術をやってきました。
 先程からアップルの話が出ていますが、アップルの本当の成功は「モノ作り」じゃなくて「コト作り」であると言うことが重要な点です。私は、このギガビット研究会も「コト作り」をしながら、全体のビジネスモデルを描きながらやって行くのだと思っています。日本は、今、困難な時期にありますが、是非、今の状況を打開するものとしてギガビット研究会がお役にたつことを祈っています。

引き続き行われた各研究テーマに関する技術的な講演内容の概略を紹介します。

■「PCBとその周辺のEMCおよびSI/PI」
岡山大学 准教授 豊田 啓孝

研究室における研究内容(五百簱頭先生の研究を含む)が紹介された。主な研究内容は下記の通りであり、各テーマに関する解説が行われた。
1. PCBの電源供給系におけるノイズ伝搬抑制
電源供給系を伝搬する高周波ノイズの伝搬メカニズムを解明し、その伝搬抑制を図る。
2. コモンモードノイズ解析とその低減設計
高速信号伝送系において、モード変換により生じるコモンモードノイズの発生メカニズムの解明と、信号品質も考慮したノイズ抑制を実現する。
3. ノイズ源の等価回路モデリングとその同定法
ノイズ対策を有効に行うための回路シミュレーションに必要なノイズ駆動源としての等価回路モデル(マクロモデル)を開発する。

■「感受性評価法およびアクティブ型ノイズ制御素子」
東海大学 准教授 村野 公俊

 村野公俊先生が急病のため、前半は電気通信大学名誉教授の上芳夫先生、後半は東海大学名誉教授の小塚洋司先生による代講が行われた。最初に東海大学の専門分野が、電波吸収体、人口媒質・メタマテリアル、放射イミュニティ・感受性評価法であることが紹介され、上先生の「電子機器・電子回路の感受性評価」の解説に続いて、メタマテリアルがご専門の小塚先生より「アクティブ型近傍界ノイズ抑制素子」の解説があった。

1. 電子機器・電子回路の感受性評価 (代講:電気通信大学名誉教授 上芳夫)

  空間を伝わって到来する電磁妨害波の到来方向が確実に分かった状態で、感受性(逆に言えば「イミュニティ」)を測定するという新しい方法を考案した。実例として全長900mm横幅298mmの4セプタムTEMセルの構造と機能が説明され、実測に基づく感受性(イミュニティ)のグラフによって装置の有効性が述べられた。

2. アクティブ型近傍界ノイズ抑制素子(代講:東海大学名誉教授 小塚洋司)

 今日の内容は、メタマテリアルと電波吸収体の組み合わせの問題に関するものである。自律制御型メタマテリアルの研究を行うようになったモチベーションは、37~8年前頃、フェライトのマイクロ波デバイスの研究を行っていた時、フェライトに静磁界をかけて同時に厚さを薄くしていくと電波を吸収する整合周波数がだんだん変化する、しかもかなり広帯域でシフトして行くことを発見したことである。興味深いのはフェライトの透磁率の実部が負であることである。その後、材料の透磁率や誘電率をなんとか電気的に変更できないか、そういう材料ができないかということをずっと考え続けてきた。実例として、可変容量ダイオードを用いた能動素子装荷型近傍界ノイズ抑制素子の構造とディップ特性が解説された。

■「電気開閉コンタクトおよびPCBのEMC研究」
秋田大学 教授 井上 浩

  研究室の紹介という形で話が進められた。研究室のテーマはEMCを中心に3つある。
1. 環境電磁工学(EMC)、 2. 医用生体工学(BME)、 3. 超音波応用(UFFC)
 これらの分野は一見すると別々のようであるが、基本となる科目は共通であり、1つの分野の知見が別の分野で応用できるようなことがよくある。今日は、この中の環境電磁波の話をする。電磁環境の問題は、機器の小型化、高機能化、高速化、低電力化などに伴ってギガビットの時代になってますます重要となるので、信号の完全性(Signal Integrity)と周囲への妨害(Interference)の双方の両立を目指した研究が必要である。
 現在、EMC関係で行っている研究内容をまとめるとPCB、集積回路、電気接点のEMC問題である。これらの研究を通じて
・科学的な手法に基づく系統的な研究から生まれたEMC設計環境の構築を目指す。
・正確な測定・計算 → 原因
・影響の特定 → 対策 → 設計
という道筋において何らかの貢献ができればということで進めている。

■“Link-Path Modeling and Design for Non-Ideal Layouts – SI/PI/EMC Co-Design Using Physics-Based Models”
「非理想的な配置配線に対するリンクパス・モデリングと設計 - 物理ベースモデルを用いたSI/PI/EMC協調設計」
Dr. James L. Drewniak
Director of Materials Research Center, Curators’ Professor, Missouri S&T EMC Laboratory

  当初予定されていたタイトルは、“Co-Design for SI/PI/EMI: Physics, Methods, and Tools for Design and Discovery”であったが、多少変更された。英語による講演であったが、理解の助けとなるよう配布されたパワーポイントのコメント欄にはキーワードが日本語で示されると共に、途中中断して研究会代表の上先生より日本語で内容の要約が解説された。講演に先立ち、上先生よりProf. Jim Drewniakのご紹介と今回講演をお願いすることになった経緯等の説明があった。

上先生からの講演者紹介:
 1991年にイリノイ大学でPhDを修了。the University of Missouri-Rolla(ミズーリ大学ローラ校)へ赴任。EMCラボが立ち上がった時以来、EMC研究所の主要な研究者の一人として現在も活発な活動をされている。
 Jim先生とは長い間お付き合い願っており、このギガビット研究会を立ち上げるに当たって、ミズーリ大学がどのようにコンソーシアムを成功に導いているのか、その要因は何か、それを日本でできるのかという話をして、非常に有益なサジェスチョンをいただいた。今回は、最初のシンポジウムを開くにあってご講演をお願いしたところ快く引き受けていただいた。本日はEMC研究所での研究、それから現在最先端の研究のテーマについて話していただく。

講演の要点は下記の通りである。ジョークを交えた面白く有益な講演であった。
・話の冒頭に、設計の基本的な考え方が述べられた:
設計において、施行錯誤を繰り返すと非効率である。よりスマートに設計するためには物理ベースの定量的なアプローチが必要になる。協調設計は、求める解答が同時に得られるように設計プロセスを管理することを意味しているが、まだ実現してはいない。
・設計に関する本題に入る前に、ミズーリ大学のEMCコンソーシアムの状況の説明があった:
コンソーシアムの利点:資源が蓄積できる。大学には人手に余裕がある。教育と技術移転が可能。
コンソーシアムの活動:年2回のスポンサー企業との集まり。スポンサー企業との共同研究・委託研究。1週間をキャンパスの研究室で過ごすコース。2時間の短期Webコース。小規模なプロジェクトからスタートするのがコツ
研究テーマ:筺体/PCB/パケージ/ICの各レベルにおけるSI/PI/EMIの研究
・本 題:
 協調設計については、色々語られているが、実際のところ自分にも分からないと言わざるを得ない難しい問題である。しかし、何を狙っているかについて示すことはできる。
リンクパスにはビアやコネクタなど構造上の不連続部が多数ある。ここで電流の乱れ(misbehavior:行儀の悪い振る舞い)が生じ、SIやEMIを引き起こす可能性がある。不連続部分が問題になるかどうかを知るためには、良い物理モデルを開発する必要がある。良い物理モデルによってSI/EMI/PIの問題を系統的に検討できる。
 物理ベースの設計とは、施行錯誤に頼らずに、きちんとした科学と方向論に基づいた工学によるものでなければならない。リンクパスをたどって配線構造を部分に分割し、各部分と1対1に対応する物理モデルを構築することが基本となる。リンクパス上のノードとポートを同定して、物理ベースモデルを作り、応答を測定する。応答が望ましくない場合には、構造に立ち返って修正を行い、モデルを作り応答を測定する。つまり、配線構造 → モデル → 応答というステップとることになる。適切な場所で分割し、適切な物理ベースモデルを構築することは決して簡単ではない。しかし、このように系統立てて設計することによって、設計変更する場合にも効率的に対処できる。
 SI/PI/EMIの協調設計は素晴らしい目標であることは論をまたない。しかし、まだ成功しているとは言えない。その大きな理由は、結合に関する物理を我々がまだ十分理解していないことである。理解できたとしても、浮遊素子のパラメータを抽出し、そのモデルを作り上げることは大変難しい。ツールの完成度が十分とは言えない。一方、設計の複雑さは急速に増大している。
 しかし技術は急速に進歩を続けており、熟練し、想像力にあふれた優秀な技術者たちが、程良く十分 (just good enough) な解決手段を開発するために懸命に努力している。解決策は完璧である必要はない。完璧を期すと高くつく。だから程良く十分なものでよいのである。

■「第一線技術者養成講座のご紹介」
1. 高速回路・EMC設計コース
電気通信大学 特任教授 上 芳夫

 午前中に理論の解説を行い、午後には演習を行って実力を養ってもらう。演習は、式の誘導や導出、モデルでの計算を行う。モデル計算におけるソフトにはフリーの計算ソフトであるScilabかOctaveを使ってもらい、グラフ作成ソフトとしてはGnuplotを使ってもらう。Octave はMatlabのクローンに近く、マトリックス計算に適している。マトリックスで表現すればソフトを用いて簡単に間違いなく計算ができる。自分で演習問題を解けば自信がつく。きめ細かな対応をするため受講生は30名に限定している。今の計画では1週間行った後、1週間あけて次の1週間の合計2週間の講座になるが、すべての時間(丸一日)出席するだけの時間が取りにくい場合もあると思う。その場合には、基本的に午前中は出席してもらい、午後は出席しなくても課題に対して自学自習をしてもらい、分からなければ質疑応答で対応すると言うように考えている。
 高速回路・EMC設計コースでは、高速回路でのEMC問題を理解するための基本的なことをとり上げる。それは、回路理論と電磁気学・伝送線路理論での取り扱いとなる。 (続いて、模擬授業の形で講義予定の内容の一部が紹介された)

2. アンテナ・EMC設計コース
岐阜大学 教授 中村 隆

 自分は東北大学の佐藤先生の研究室でご指導を受けたが、いつも言われていたことは「電波はどこから出るのか?」ということであった。そんなテーマでは論文は書けないので、アンテナをやったり、電波吸収体をやったりEMCをやったりしているうちになんとなく、見えてきたような気がする。そう言うところを、講座を聞いていただける皆さんと共有できたらいいのかなと考えている。
 また、コースの名前が「アンテナ・EMC設計コース」となっているように、アンテナを設計するためのコースではなく、回路を設計する人がEMCに関連してアンテナを理解するためのコースであると考えている。
 本講では、おおもとに立ち返る統一的理論に基づいて、線路とアンテナの違いと共通点を明らかにし、アンテナ設計を基本概念から説明する。(続いて、カリキュラムの内容の解説があった)

閉会のあいさつ
電気通信大学 特任教授 上 芳夫

  朝早くから、夕方遅くまで長時間に亘ったことをお詫びします。皆様にお書きいただくアンケートを見ながら、今後のシンポジウムの課題などを選んでいこうと思いますので忌憚のないご意見あるいはご要望をお寄せいただきたいと思います。企業の皆様にご満足いただけるように進めていきたいと思っています。今回暫定会員として参加された方も、これだったらと思われるようであれば、是非正会員になっていただけるようお願いいたします。今日は、ありがとうございました。

編集後記

(1) 参加された多くの方々からアンケートへの有意義な回答をいただきました。参考までに一部を掲載します。
・本日の説明会で、本会の趣旨について理解を深めることができた。
・セミナーや講座の年間開講予定を早めに開示してもらうと、業務との調整がつきやすいと思う。
・もう少し実務的な面を強調されていくとよいとの印象を受けました。
・SI/PI/EMCで今後の電子産業界を見たときに、今後の研究はどちらを向くのか、長期的視点での運営をお願いする。
(2) また、シンポジウムの終了後行われた親睦会では、今後の展開に参考になる貴重で有意義な意見交換行われ、親睦も深められました。

 今回は、第1回のシンポジウムであり、事務局としてもまだ、手探り状態というのが実情です。アンケートでいただいたご要望やご提案にはできるだけお応えするよう努力する所存ですので、今後とも皆様のご協力とご支援・ご鞭撻を何とぞよろしくお願い申し上げます。

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